愛知県に暮らすウクライナ人女性が、1冊の絵本のイラストを描いた。ロシアによるウクライナ侵攻から24日で2年。故郷を離れ、今なお戦火が続く母国を案じながら、こんな願いを込めたという。「世界中の子どもたちが、この絵本で笑顔になってほしい」
絵本のタイトルは「シロちゃんとりんご」。コーギー犬のシロちゃんが、飼い主の留守中に、置いてあった大好きなリンゴをたくさん食べてしまうという物語だ。絵を担当したのは、ウクライナ出身のグラフィックデザイナー、コロトコヴァ・エリザベータさん(24)。シロちゃんの写真をもとに、ひとつひとつの表情にこだわって描きあげた。かわいらしく、全体的にやさしいタッチで描かれている。
首都キーウ近郊のイルピンで家族と暮らしながら、デザインの会社で働いていたエリザベータさん。2022年2月24日早朝、近所で爆発音が聞こえた。ロシアによる攻撃だった。住んでいたアパートの地下に10日間ほど避難。知人を頼り、単身で名古屋市に避難した。
日本語は話せなかったが、ワクチン接種のアルバイトなどに取り組んだ。そんなエリザベータさんのことを、名古屋市西区の元小学校教師で、シロちゃんの飼い主でもある今飯田洋子さん(64)はテレビで知った。
「絵本でウクライナを思い出して」
「子どもたちにはこれ以上、悲しい思いをしてほしくない」。ウクライナのニュースに心を痛めていた今飯田さんは、絵本を作りたいとの思いを持っており、エリザベータさんにイラストをお願いすることに決めた。日本語学校などに連絡して探し出し、会うことができたという。
エリザベータさんは「絵本は描いたことがなかったけど、仕事にNOは言わない」と応じた。ウクライナの子どもたちにも読んでもらえるように、ウクライナ語の翻訳もつけた。約1年かけて完成させた。
昨年12月に自費出版し、同県春日井市の図書館やNPO法人日本ウクライナ文化協会(名古屋市東区)などに寄贈した。「絵本を読んで、ウクライナのことを思い出してくれたら」。エリザベータさんと今飯田さんの共通の願いだ。
絵本を作りながら、エリザベータさんは自動販売機や企業の看板など、様々なイラストの仕事を引き受けた。日本語学校で勉強も続け、通訳なしで日常会話ができるようになり、日本語能力試験2級に合格。名古屋市の会社に就職が決まった。
ロシアによる侵攻が長期化し、国際的な「支援疲れ」も懸念されるなど、ウクライナを取り巻く情勢は厳しいが、エリザベータさんは「日本で頑張っている姿を家族は喜んでくれる。ウクライナで戦っている人たちもいるから、私は日本でできる支援を続けたい」と話す。
絵本はB5変型判で24ページ。税込み1430円。「空とぶロバ出版」のオンラインショップ(https://ehonnakama.theshop.jp/items/80011592)で購入できる。(三宅梨紗子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル